マネージャーやリーダーが、組織で人工知能の導入成功を促進するためにできる 7 つのこと

著: Nufar Gaspar、Director of AI Everywhere

人工知能 (AI) の重要なポイント

  • AI の導入にあたってマネージャーは重要であり、マネージャーの適切な関与は AI プロジェクトの驚異的な失敗率を乗り越えるために役立ちます。

  • マネージャーは、AI スポンサー、ドライバー、イネーブラーという役割を果たすことができます。そのため、マネージャーはリソース、目標、行動、振る舞いが AI 導入のプロセスに適切であるようにする必要があります。

  • ここでは戦略の決定から、利用すべきデータおよび追求すべきユースケースについての賢い選択、そして変更管理、必要な AI スキルと組織における役割に至るまで、マネージャーとリーダーが AI 導入を加速するために取るべき 7 つの主な行動を提案します。

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AI の導入にあたってマネージャーは重要ですか?

もちろんです。Gartner によると、AI プロジェクトの失敗率は驚異的なものです。しかしこれは避けられない運命などではなく、この統計に打ち勝つためにマネージャーができることは多くあります。ここ 12 年間、私はインテル IT 部門の人工知能グループにおいてさまざまな指導的役割を担ってきました。このチームは、幾多もの AI アルゴリズムを作成して製品化し、AI の成功率を高める、信頼できるいくつかの方法を実践しました。ここでは、その方法についてお伝えしたいと思います。

その取り組みの一つは、インテルの「あらゆる場所での AI 活用」プログラムで、さまざまなビジネス上の課題を経穴するため企業全体で AI を適用する際の成功率と価値を高める目的で昨年創設されたものです。このプログラムのために、コンサルティングとトレーニング・セッション、セルフサービス AI ツール、およびオンデマンドによるエンドツーエンドの AI 機能作成を豊富に取りそろえ、さらに AI 実務家やエンスージアストのための大規模な国際的コミュニティーを育成しました。

今年を通じて、私は会社中で、AI の活用を図っている多くの人々、チーム、リーダーたちと話し合い、相談し合う機会に恵まれました。AI に手を付けたばかりの人も、うまくいっている人もいます。課題やソリューションには、特定の領域に固有の者もありますが、異なるチーム間で明確な共通点もあります。はっきりしている一つのポイントは、組織のマネージャーやリーダーが、組織の AI 導入プロセスに関与するレベルやスタイルにより、大きな違いが生まれているということです。これが AI 導入ペースに関係する唯一の要因だということは決してありませんが、私たちはマネージャーとして、物事を早めるために貢献できます。それも、大幅に。そうでなくても、AI を「正しく」導入するための現実的かつ実現可能な計画を作成できます。この記事の残りの部分では、マネージャーやリーダーが AI の導入において果たすべき役割と主な活動について概説します。AI の導入をより迅速に、より大きく成功させるためには、マネージャーやリーダーが導入に関与すべきだと私は信じています。

AI スポンサー、ドライバー、イネーブラー – マネージャーおよびリーダーが果たすべき役割

私はインテルにおいて、組織が AI 導入を始めるプロセスについての 2 つの方法を見てきました。「ボトムアップ」では、1 人または少人数の従業員グループが AI の取り組みを主導し、その価値を証明してマネージャーの同意を取ります。あるいはマネージャーが潜在的な可能性を見いだし、AI 導入の意思決定 (理想的な場合は行動まで) を行なうこともあります。すなわち、「トップダウン」です。私の経験では、AI 導入のペースや成功度を予測するための最大の要因は、AI の取り組みがどのように始まったかではありません。非常に関連性が高いのは、(初めから関与したか後から加わったかにかかわらず) 関与したマネージャーが適切な役割、すなわち AI スポンサー、ドライバー、イネーブラーの役割を果たしたかどうかです。そのため、マネージャーはリソース、目標、行動、振る舞いが AI 導入のプロセスに適切であるようにする必要があります。以下、AI 技術を組織に適用するプロセスを早めたいと願うマネージャーにとって非常に重要であると私が考える 7 つの主な活動について説明します。

1. 組織における AI の利用範囲と方法について明確な戦略と目標を立てる

チームが AI に手を着けたばかりのとき、特にその始まりがボトムアップから生まれた場合には、まだ「AI 戦略」を決定する喫緊の必要はありません。具体的なビジネス上の結果を得ることがより重要です。しかし、組織のマネージャーが投資を増加し、AI 導入のペースを速めたいと思うようになったら、すぐに AI 戦略と目標を定めるよう取り組みを始める必要があります。

そしてもちろん、物事は進めるに従って変化することが多く、戦略の調整が必要になる可能性は高いのですが、それでも始めるにあたって戦略がないよりはあった方が良いのです。

戦略と目標を定めるにあたって答えを出すべきいくつかの問いを以下に挙げます。

  • AI はチームの個人が作業するのか、それとも他のチームやベンダーに委託するのか。
  • AI センター・オブ・エクセレンスを設置することや、AI 作業を組織全体に分配することを狙っているか。(一部またはすべての作業を委託する場合も)
  • 初期の対象範囲計画: 小さく簡単なこと (すぐに使えるツールを使う、やさしい目標の達成を目指すなど) から始めるか、それとも大きな目標に向かい、カスタマイズされた機能を作成するか。
  • AI 導入の成功をどのように測定するか。ROI か、作成した機能の数か、それとも他の基準によってか。
  • 導入ペース。思い切って大きい目標を目指すのか、それとも徐々に投資を増やしていくのか。

AI 戦略を定めるということの直接的な意味の 1 つは、組織内で AI 知識を強化することについて明確な計画を持つ必要があるということです。

2. 組織における AI スキルの「ピラミッド」と、AI 知識の強化計画を定める

AI は家庭生活のあらゆる側面において中核的な技術になろうとしています。これはやがて、仕事においてもそうなります。このことを念頭に置けば、全従業員が AI の知識とスキルを伸ばす必要があると私は強く信じています。誰か従業員を AI 実務担当者にすることを目指しているわけではありません。私はこれをピラミッドに見立てています。その底は全従業員が持つべき AI 知識であり、そこから一番上に向かって、各組織は AI 戦略と目標に応じたさまざまな「AI ペルソナ」を定めることができるし、またそうすべきなのです。組織の「AI 知識ピラミッド」は、AI 導入の計画がどれほど積極的か、また内部で AI コンピテンシーをどれほど伸ばしたいか、それとも外部パートナーと協業するかといった要素を反映すべきです。

以下の例 (図 1) には、主な AI ペルソナが 3 つ存在します。「全員」、「AI 推進者」、「AI 専門家」です。

ここでは、(インテルの多くの組織に該当する通り) 各従業員が AI の基本概念を理解する必要があるということを想定しています。それにより、恐れや反対を一掃でき、機会を特定するために役立ちます。さらに、基本概念さえ理解できれば、仕事の方法を AI に合わせて変えることをより受け入れるようになります。少なくとも、ある程度は。

以下のピラミッドで、全員が理解すべきものに続く 2 つの階層の具体的な定義はチームにより異なります。もっと細かく分けるチームもあれば、別の分け方をするチームもあります。

図1: 「AI スキルピラミッド」の例。

ここで肝心なのは、誰がどのスキルを学ぶべきか、そしてそこまで到達するにはどのようにするのかを明確化することです。ある組織は、野心的で「ビッグバン」のような AI 能力向上計画を立てますし、別の組織はもっとゆっくり、ゆるやかなペースの能力向上を目指します。組織の AI 戦略と目標に沿っている限りは、すべての AI 能力向上方法が妥当なものです。

3. 既存のデータを活用し、その改善に賢く投資する

AI を実現するためにもっとも重要なのは、おそらくデータです。これは、組織のすべてのデータが整うまで、AI を適用できないという意味ではありません。実のところ私の経験からすると、組織がデータから明確なビジネス価値を引き出す取り組みを平行して行なうことなく、長期間に渡る高額な「データ基盤プロジェクト」を行なった場合、だいたいはそのデータ基盤の作業を中止してしまい、関係者全員に不満を残すことになります。まずは既にあるデータ、または比較的簡単に得られるデータから手がけて、そのデータを使って最高に価値ある AI 機能を作成し、その成功を基盤として、さらに多くのデータを取り出すため徐々に投資額を上げてみてはいかがでしょうか。強く言っておきたいことがあります。「データ進化」のあらゆる段階は、データをため込むことと等しくはありません。そうではなくて、どうやってそれを収集するか、それによって何ができるかがはっきり見えているデータを収集し、増え続けるデータセットによりビジネスの価値が継続的に伸びるようにするのです。データの価値についてより多くの根拠と確信があれば、より大胆な目標に向かうことができます。例えば、どのシステムでも現在は入手できないデータを収集する、ツールに重大な変更を行なう、データ収集の方法に取り組む、さらにはまったく新しいデータ・プラットフォームを作成するなどです。

4. 変更を管理する:トップダウンとボトムアップ

より良いデータを作成するにしろ、AI 導入を推奨するにしろ、多くは反対に直面します。恐れや保守性に起因する反対もあるでしょうが、AI 導入のプロセスが適切に管理されていれば、多くの反対はなくせます。私の経験では、変更を「トップダウン」で管理するだけでは不十分です。つまり、明確な戦略と目標を定め、それを従業員に伝え、新しい各 AI 機能を実装すればすべてがスムーズにいくなどとは思わないことです。これまで私が見てきた非常に価値ある AI 機能は、人間の専門家と AI との間で何らかのレベルのコラボレーションが必要なものでした。専門家が AI のおすすめを活用して出力を改善することが期待されるもの、AI が成功するためにフィードバックや改善したデータが必要なだけのもの、単に最初のチャンスを逃さないよう AI 機能をオフにしないために専門家が必要なものもあるでしょう。いずれにせよ、エンドユーザーがプロセスに参加せず、目的のために AI を活用するための教育、権限、確信がない場合、導入は失敗する可能性が高くなります。したがって、特定の機能レベルや、組織が向かう全体的な方向性について、早い段階からエンドユーザーと専門家を話の輪に加えておく必要があります。反対が大幅に減少して成功率が高まるだけでなく、こうした人たちは驚くべきアイデアをもたらし、プロセスを大幅に加速してくれる可能性が高いのです。

5. 明確な ROI とビジネス上の目標を持って、適切なユースケースを選択する

私の経験では、ユースケースの選択段階において十分な努力と調査を行なってさえいたなら、AI の失敗のほとんどとは言わないにしろ、その多くは防げたはずです。特にマネージャーに期待したいのは、AI のアイデアが持つ実現可能性 (図 2 参照)、リスク、そして潜在的価値を、チームおよびあらゆる意思決定者が完全に理解するよう徹底することです。私はマネージャーを、AI の特定のアイデアやテクノロジー全体に対する、潜在的な問題を見逃すほどの偏見を避けるための門番として理解しています。どの AI のアイデアを進めていくかについて真面目に考えることで、AI プロジェクトが今後遭遇するあらゆる障害や困難を防げるわけではありませんが、少なくともリスクは認識できるはずです。さらに重要なことは、自分自身とチームに難しい問いかけをすることで、AI の成功には、起こりうる挫折に耐え、それを克服するだけのビジネス価値があるようにすることです。

図 2: AI を適用するアイデアについて考える際の実現可能性分析の主なトピック。

6. タスクの重要度と複雑性に基づいて適切な人材を割り当てる

もうお気づきかと思いますが、私はすべての AI のアイデアが生まれながらに平等なのではないと固く信じています。従って、必要なスキルセットについてどの状況にも当てはまるようなものはありません。ただし私がよく見る典型的なシナリオは、アイデアについて取り組む際、マネージャーがデータ・サイエンティストのみを割り当てるというものです。データ・サイエンティストは、アルゴリズムの側面について処理を行ないたい場合は適切な人材であることが多いですが、通常は、データ・サイエンティストだけでは不十分です。複雑性が高く、統合的で、変革的な AI プロジェクトを追求している場合は特にそうです。複雑性の高い AI アイデアを製品化し、ビジネスへの大きなインパクトを生み出すまでに至らせる可能性を高めるため、関与させることをお勧めする主なペルソナをご紹介します。

  • データ・サイエンティスト: 一定の範囲と目標を考慮した上で問題解決に最適なアルゴリズムを作成する責任を主に担います。
  • 対象分野の専門家: 解決しようとしている問題について深い実務的洞察力を持ち、ビジネスの成果を最大化するために決断を動かすことができます (どのデータをどのように処理するか、解決すべき問題をどう適切に定義するか、ビジネスプロセスの一環としての AI ソリューションの統合や実装をどうするのか、など)。
  • ML エンジニア / AI プラットフォーム・エンジニア: ビジネス上の問題と、データ・サイエンティストが作成したアルゴリズムに最適化された、エンドツーエンドの AI ソリューションのアーキテクチャー作成とその実行を担当します。現代の AI SW や MLOP の実践に精通している必要があります。
  • AI 製品 / プロジェクト・マネージャー: 製品 / プロジェクト管理、および AI 技術に深く精通した人々です。AI アイデアの定義と実行から、製品化、長期にわたる持続的なビジネスへの影響の最大化に至るまで、多くの分野にまたがるチームを率いる経験を積んでいる必要があります。
  • インテグレーター: 該当する場合、AI 機能を既存のプロセスに戻して統合でき、AI の統合に必要な変更をできるだけスムーズに行える個人やチームと密接に連携することは非常に有益です。
  • AI スポンサー: AI アイデアに取り組むプロセスに影響を与え、障害を取り除くために貢献できる、指導的立場にいる人物です。リソースの割り当て、POR の決定、成功を最大化するために適切なレベルの決定を方向付けるなどといった役割を担います。これは往々にして、全体的な AI 導入のプロセスにおいて、物事を早めるためにマネージャーであるあなたが果たせる最も重要な役割です。

7. 期待と忍耐の水準を設定する: 変革には時間と投資が必要です

この最後の項目は、特にマネージャーやリーダーに私が与えるアドバイスとして最も重要な部分です。ここまで読んできたあなたは、組織で AI を稼働させるためにかなりの投資をすることについて、すでに実践したか、真剣に検討しているということです。そうであれば、ROI が十分大きくなるようにしたいはずです。それも満足できる早さで。しかし私の経験からすると、「十分な ROI」に到達できるまでには、ほとんどの人々が思い描くよりも長い時間と複雑なプロセスが常に存在します。それには複数の理由があります。AI はまだ新しく、煩わしいことも多い技術です。知覚リスクがあり、適切に行なわなければビジネスに実際のリスクもあります。それに加えて、POC から製品化までの道のりを成功させる時間は常に予想より長いものです。最後に、その潜在能力を完全に発揮するなら、AI はビジネスを行なう方法をまったく変革させる方向に向かいます。そして変革には時間と、投資と、忍耐が必要です。下の図 3 は、AI 導入のさまざまな段階における典型的な AI 成熟度グラフと、それぞれの特徴、および典型的な期間を示しています。これはあなたをがっかりさせるためのものではなく、結果とそれを得られる早さについて現実的な期待を抱いてもらうことを目的としています。

図 3: AI 採用の典型的な成熟度曲線とペース。

これからどこに進むべきか?

今、あなたの頭の中にはこんな疑問が渦巻いているかもしれません。「7 つのステップすべてを読んで、それに従ったとして、物事をもっと早く進められると確実に言えるだろうか?」 その答えは、「たぶん」です。先ほど述べたとおり、たとえ上手く行なったとしても、AI の導入は最初に期待したよりも時間がかかり、予想以上にリソース集約型のプロセスであることが多いものです。ただし、適切に行なった場合は、あなたが AI スポンサー、ドライバー、イネーブラー、あるいはそのすべてを選んだ場合であれ、成功率や期待したビジネス上のインパクトを引き出せる確率が飛躍的に高まります。これは大きなモチベーションとなるでしょう。